天然薬物開発分野

 我々の分野では、研究の主な焦点として、腫瘍微小環境におけるがん細胞の栄養飢餓耐性を標的とする天然抗がん物質を探索している。がん細胞は一般的に無秩序かつ急速に増殖し、多くの場合、脆弱で無秩序に腫瘍血管が形成されるため栄養や酸素の欠如した環境に曝されることになる。特に、膵臓がんのような乏血性腫瘍においては、がん細胞はエネルギー代謝を調節することで低栄養・低酸素といった厳しい環境に対する耐性(austerity)を獲得している。従って、この栄養飢餓に対する耐性を解除する天然抗がん化合物の探索は、我々の重要な研究目標の1つである。この研究目標を達成するため、我々の分野では以下の研究課題に積極的に取り組んでいる。
  1. ヒト膵臓がん細胞(例、PANC-1、MIA Paca2、KLM-1、NOR-P1、Capan-1、PSN-1など)を利用して、がん細胞の栄養飢餓耐性を標的とした(antiausterity strategy)、各地の伝統生薬(漢方生薬、アユルヴェーダ生薬など)の抗がん活性のスクリーニング。
  2. 活性を指標にして最先端のクロマトグラフ及び分光分析(NMR,MS,UV,IR,CDなど)技術を活用し、成分を分離・精製ならびに同定による天然薬物資源から栄養飢餓耐性を解除する活性物質(antiausterity agent)の探索。有望な候補物質は、ヒト膵臓がんのマウスモデルを用いたin vivoでの抗腫瘍活性効果の評価を行う。
  3. 活性天然化合物の構造活性相関研究ならびに栄養飢餓耐性を解除する機序の解明。
  4. FT-NMRおよびFT-MS手法の活用による、活性物質(antiausterity agent)の膵臓がん細胞の代謝に対する影響の解析。